動画の作り方を教えている職員は、数年前まで、事業所に通う側にいました。
札幌の就労継続支援A型事業所ネクサスリンクで、職員として動画制作を担当している小川さん。インタビュー動画やイベントのダイジェスト、お店のショート動画を作りながら、利用者さんに編集を教えています。
動画との出会いのこと、教える側になって考えていること、うまくいかなかった時期のこと。ひとつずつ聞いていきました。
はじまりは、漫画を動画にする作業でした

――そもそも、動画の道に入ったきっかけって何だったんですか。
きっかけは、以前通っていたB型事業所です。そこで漫画を動画にする作業を経験して、「動画にはこんな表現ができるんだ」と興味を持ちました。
――やってみて、どうでした。
実際に取り組んでみるととても面白くて、もっと編集技術や映像制作について学びたいと思うようになりました。それで動画の道に進みました。
――そのとき、福祉の仕事に就くとは想像していましたか。
いえ、まったく想像していませんでした。ただ、動画制作を学び続ける中で職業指導員という立場になって、自分自身も成長しながら利用者さんを支援できる今の仕事は、自分の目指したい方向性と合っていると感じています。
B型事業所からA型事業所へ、という道のりについてはB型からA型へのステップアップの記事でも紹介しています。
いまは、職員として動画を教える側にいます

――いま、どんな動画を作っているんですか。
実際に納品した案件だと、インタビュー動画、イベントのダイジェスト、宣伝系のショート動画などがあります。あとは提携企業の飲食店事業のショート動画ですね。
――1本作るのに、どれくらいかかるものなんでしょう。
長いものだと2週間以上かかるものもありますが、ショート動画だと1日で作ります。基本的には1人で担当してもらいます。
――1日の流れを、朝から順に教えてください。
まず自分に振り分けられたタスクを確認します。クライアントの要件や与えられた素材を確認して、全体の作業イメージを描きます。その後、実際に編集を始めます。修正や納品を考えると、作業が終わる1時間前の14時には1度書き出して、修正指示を待ちます。修正後は何度も確認して納品します。
――14時、というのが決まっているんですね。
はい。その日の作業を終える1時間前に、いったん形にして見せておく。この区切りがあると、修正のやりとりを持ち越さずに済みますし、納期にも余裕が生まれます。
動画編集の具体的な仕事内容や、未経験からの進み方は札幌のA型で動画編集の仕事ってどんな感じ?にまとめています。
教えるとき、いちばん気をつけていること
――人に教えるとき、いちばん気をつけていることは何ですか。
相手の特性を理解することを心掛けて、その人が安心して取り組めるよう、伝え方や言葉を工夫することです。
――得意・不得意の差が大きいなかで、仕事はどう割り振っているんでしょう。
現在は一人で一つの案件を担当することが多いので、細かく仕事を割り振ることはあまりありません。その代わり、一人ひとりの知識や経験に合わせて、担当する案件の難易度や内容を調整しています。もちろん、納期に間に合わない場合や難しい工程がある場合は、職業指導員がサポートやフォローを行いますので、安心して仕事に取り組んでいただけます。
カットだけの案件、文字起こしとテロップ編集の案件。いきなり全部ではなく、その人がいま持っているものに合う仕事から渡していく。小川さん自身、最初は分からないことだらけだったからこそ、そのさじ加減が分かるのかもしれません。
職員も、抱え込んで苦しくなることがあります

――ここまでで、いちばんうまくいかなかった時期はいつでしたか。
自分が担当している案件の難易度が高くて、余裕がなくなっていた時期です。
――そのとき、何が起きていたんでしょう。
自分の作業に追われるあまり、利用者さんのサポートに十分な時間を使えず、焦りを感じることがありました。その経験から、一人で抱え込まず、周りの職員と協力しながら支援していくことの大切さを実感しました。
――納期と支援、そのバランスで迷うことは今もありますか。
自分一人で納期と支援の両方を抱えようとしていた頃は、そのバランスに悩むことがありました。現在は、一人で抱え込まず、周りの職員と協力しながら支援していくことで、納期と支援の両立ができるよう心掛けています。
ひとつ前で、小川さんはこう話していました。「難しい工程がある場合は、職業指導員がサポートやフォローを行いますので、安心して仕事に取り組んでいただけます」。
あの「安心して」は、支援の教科書に書いてあるから出てくる言葉ではないのだと思います。自分が抱え込んで、苦しくなったことがあるから出てくる言葉なのだと。職員も、完璧ではありません。つまずくし、焦ります。違うのは、そこから仕組みを変えたかどうかだけです。
「この人、伸びたな」と思った日

――「この人、伸びたな」と感じるのは、どんな瞬間ですか。
動画制作は、自分で情報を調べながら課題を解決していく場面が多い仕事です。最初は編集ソフトの操作方法に不安があって、分からないことがあるたびに質問をしていた方が、経験を積む中で自分で調べたり、試行錯誤しながら進められるようになった姿を見たときに、大きな成長を感じました。
――ほかにも印象に残っている場面はありますか。
自分では思いつかないような演出やアイデアを提案してくれて、それが作品にうまく生かされていたときですね。技術だけでなく発想力も伸びていると感じて、とても印象に残っています。
――仕事をしていて、いちばんうれしい瞬間は。
利用者さんから「ありがとう」と言ってもらえたときです。一人ひとりの特性や考え方をできるだけ理解した上で関わることを大切にしているので、そのサポートが役に立ったと実感できたときは、とてもやりがいを感じます。
小さな積み重ねが半年後に差になっていく話は、「気がついたら差がついていた」を生む小さな習慣でも書いています。
動画の仕事は、福祉と相性がいいと思います
――動画という仕事が福祉と相性がいいと感じるのは、どんなところですか。
動画制作は、一人で一つの案件を進めることができるため、コミュニケーションに苦手意識がある方でも、自分のペースで仕事に取り組みやすいと感じています。座ってできる仕事でもあり、特性や体調に合わせた働き方がしやすいことも、相性が良い理由の一つです。
――前の職場と、いまでいちばん違うことは何でしょう。
職場の雰囲気です。利用者さん同士で自然に会話をしたり、分からないことを相談し合ったりしながら課題を解決する場面が多くて、とても活気のある職場だと感じています。
人と話す場面が少ない仕事を探している方には、人と話さない仕事はある?接客・電話が辛い方へもあわせて読んでいただけたらと思います。
教える側になった今も、調べて、試しています
――ご自身のスキルで「足りない」と思っていることはありますか。
編集の経験値です。技術はもちろん大切ですが、経験を積むことで「どの表現が伝わりやすいか」という判断力も身に付いていくと思っています。これからも多くの案件に取り組みながら、より良い編集ができるよう成長していきたいです。
――いま誰かに助けてほしいことを、ひとつ挙げるなら。
編集をしていると、「もっと良い見せ方があるのでは」と行き詰まることがあります。そんなときに、自分より経験豊富な編集者と一緒に考えたり、意見をもらえたりすると、とても心強いと思います。現実には、参考になる動画を探して演出や構成を研究して、自分なりに試行錯誤しながら解決しています。
気づいたでしょうか。調べて、試して、覚えていく。これは、小川さんが「伸びた」と話していた利用者さんの姿と、まったく同じやり方です。教える側になったいまも、小川さんは同じ方法で前に進んでいます。
これから目指していること
――1年後、動画チームをどんな状態にしたいですか。
今よりも単価の高い案件にも対応できる体制を作りたいと考えています。そのために、一人ひとりの編集スキルを高めるだけでなく、チーム全体の品質や対応力も向上させ、安心して仕事を任せていただける動画チームを目指しています。
――利用者さんには、最終的にどうなってほしいですか。
最終的には、一般就労を目指してほしいです。そのために、動画編集に関するスキルだけでなく、仕事を最後までやり遂げる力や、自分で考えて行動する力や自信も育てていってほしいと思っています。
B型事業所で動画に出会い、A型事業所で教える側になった人の言葉だと思うと、この一文の重みが少し変わって聞こえます。A型で身につけたスキルがその先にどうつながるかは、A型事業所で身につけたスキルは将来に活きるのかでも紹介しています。
――チームに加わってほしいのは、どんな人ですか。
自分で調べながら学ぶ姿勢のある方です。動画編集は、調べて試しながらスキルを身に付けていく場面が多い仕事なので、その積み重ねが成長につながると感じています。
――ネクサスリンクだからできる動画の仕事って、何だと思いますか。
動画編集だけでなく、AIを活用した制作にも取り組めることが強みだと思います。AIに詳しいスタッフがいるため、新しい技術やツールを学びながら、これからの時代に求められるスキルを身に付けられる環境があります。
現場でAIをどう使っているかはA型事業所でAIを”使いながら覚える”で、利用者さんが作った実物と一緒に紹介しています。
――発注を検討している企業の方に、ひとことPRするなら。
動画制作を通して、お客様の課題を解決すると同時に、利用者さんの成長や就労支援にもつながる仕事を目指しています。一つ一つのご依頼を大切にし、責任を持って制作いたします。
休みの日の小川さん
――休みの日は、どんなふうに過ごしていますか。
休日は睡眠の質を高めることを意識して過ごしています。軽く散歩をしたり、ストレッチをしたりして心身をリフレッシュするようにしています。
――影響を受けた作品はありますか。
MVやボカロ作品ですね。限られた時間の中で印象に残る演出やテンポの良い編集が多くて、とても参考になります。あと企業CMもよく見ていて、「短い時間で何をどう伝えるか」という構成や表現を意識しながら見ると、新しい発見や学びがあります。
――しんどいと思ったとき、何で持ち直しますか。
ありがたいことに、「もう続けられない」と思うほどしんどくなったことはありません。ただ、疲れを感じたときはしっかり睡眠を取ることを大切にしています。あと、単純な作業が続いたときは、自分が楽しいと感じる動画編集に取り組むことで、「やっぱり動画を作るのは面白いな」と気持ちを切り替えています。
B型事業所で漫画を動画にしたときに感じた「面白い」が、いまも切り札として残っている。そういうことなのだと思います。
その道は、いまあなたが立っている場所から続いています
職員の小川さんは、特別な人としてこの場所に来たわけではありません。事業所で動画に出会い、面白いと思い、調べて、試して、覚えていった。その延長線上に、いまの仕事があります。
だから、いま「自分にできるだろうか」と迷っている方にこそ、この話を届けたいと思いました。教えている職員も、同じ場所から始まっています。つまずいて、抱え込んで、周りに助けてもらいながら、ここまで来ています。
ネクサスリンクは、札幌市東区・地下鉄東豊線「東区役所前駅」直結の就労継続支援A型事業所です。動画の現場も、実際の様子を見ていただけます。見学で確認すべきことや体験利用の流れもまとめていますので、「まずは見るだけ」で構いません。気になったら、お気軽にどうぞ。
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